公開日:2020/11/08
目次
1.はじめに
数年前にブログの素材を募集させていただいたことがあるのですが、そこでお一人の方から「五月病」について教えてほしい、といったご要望がありました。
今回は当時書いた記事を加筆修正したものを掲載したいと思います。
2.五月病という精神科的病名はない
まずやや固い話から始めます。たまに誤解される方がおられるのですが、五月病というのは、例えば「統合失調症」「双極性障害」といった病名のような、正式な精神医学的な意味での病名ではないんですね。精神科・心療内科を受診して、「五月病」と診断されることはありません。
五月病以外にも、巷に流布している言葉の中には、一見すると精神科的病名のようだけど実はそうではないものがわりとあります。「アダルトチルドレン」もそうですし、最近ですとHSPがそうですね。HSPは昨今急速に広まっている概念ですが、正式な病名ではありません。
3.なぜ五月病という名前が知られているのか
ところが、五月病という名称は比較的多くの方に知られていますよね。何故でしょうか。
それはやはり5月頃に心身の不調を訴える方が、昔から一定数おられるからだと思います。だからこそ五月病という言葉が多くの方に共有されていったのでしょう。その背景にはどのようなメカニズムがあるのでしょうか。
まず新年度最初の4月は、多くの方に仕事、家庭、学校など様々なところで大きな環境の変化が生じます。その変化に一生懸命適応しようとする過程で(意識的かどうかはともかく)、様々な疲労やストレスを抱え込みやすい、といった過程があると考えられます。
そして、その後のいわゆるゴールデンウイークの連休でホッとした時に、それまでの疲労がドッとでてきて心身の調子が崩れる、場合によっては精神科の病状的なものもでてくる、といった経緯が存在するのだと思います。
一定数の方が上記のような過程・メカニズムをなんとなく、あるいは皮膚感覚的に実感しているからこそ、五月病という言葉が広く共有されることになったのではないでしょうか。
4.いわゆる五月病への対処
では、実際にいわゆる五月病的なものに(あらわれ方は人それぞれですが、ここでは、「通常時では生じない心身の不調」と定義づけます)、どう対処すればいいでしょうか。
まず、4月~5月は「上記のような時期なんだ」という事を「心に留めておく」といいと思います。
場合によっては、仕事や学校を辞めたくなる気持ちが生じる事もありますが、そういった気持ちが生じている場合は、休息を取ったり、少し仕事や家事の気を抜いたりしつつこの時期を「やり過ごす」という発想を持つといいと思います。この時期をやり過ごせると、また元気になってくる事がしばしばあります。
それから、この時期に新しい事を始めることはおすすめしません。例えば、「気分がいまいちだな~、だからストレス発散をしよう!」と考え、新たに楽しいと感じる活動を始めたとします。仮にその活動が楽しいことでもあっても、新たな活動というものは、エネルギーを使うし疲労はします。
新年度、4月の環境への適応で心身が疲れエネルギーが少なくなっている時ですので、やはり原則として、この時期に新しい事をはじめる事はおすすめできません。この時期は「心身の休息・手を抜く」がやはりベースになると思います。
そして最後に、不眠が続いたり、体に強いだるさがあって動けない、鬱っぽい、所属組織(職場や学校など)を辞めたいと強く思えてくる、といった場合には一度精神科・心療内科などの医療機関やカウンセリング機関へご相談をされるといいと思います。
5.参考文献
・看護のための精神医学 中井久夫 山口直彦 2001年 医学書院